2018年03月23日

清風 2018年3月


清風 2018年3月

 天上天下唯我独尊

お釈迦さまが世に出られたことの意味を伝えてきた物語。誰でも、この
宇宙のただ中で、人はそのままで在って尊いのである、ということ。

註)言うまでもないことだが、「我が一番偉いもの」という意味ではない。
それは比較の上でのことであり、「独尊」の最も対極(反対)の意味である。


4月8日は「花祭り」と呼び習わしてきたように、お釈迦さまの誕生された日とされています。
冒頭に掲げた「天上天下唯我独尊」には前後に言葉が付けられており、「お釈迦さまは誕生の時、七歩歩いて“天上天下唯我独尊”と宣言された。」とあります。
まぁ、誕生してすぐに歩いたり、宣言するということはあり得ないことなのでしょう。
ただ、釈尊の教えに触れた人(仏弟子)の間で、釈尊の教え(釈尊の誕生が意味するもの)を完結に一言で言い表すとすればこのような言葉として表現するのが的確であるという共通の了解が、認知されていったのだと思います。
私たち一人ひとりが、誰しもこの世に出世(誕生)したことについて、表現は様々であっても、関心を持っているというのは、人間であるからなのでしょう。
人間は、それぞれの民族が固有の物語を持っています。
その神話は、大抵の場合、その民族が他の民族に比べて一番優れた民族であると誇る筋書きになっているようです。
これは、人間が「我・自分」というものを他と比較して認識するという、猿とは違い知恵を持ったことによって人間となったことによるのだと思われます。
これは、インドに釈尊が生まれられた頃(紀元前5、6世紀ごろ)、ギリシャのソクラテス、中国の孔子などの賢人から、人間として生まれた誰にとっても究極的課題であるという共通関心事を一言で言い表せば、「修身(身を修める)」であるということが明らかになったからであるとされています。
ソクラテスは「自己とは何ぞや」との問いを掲げ、孔子は「我十有五にして学に志す。三十にして立つ。
四十にして惑わず。
五十にして天命を知る。
六十にして耳従う。
七十にして心の欲する所に従って、矩をこえず」と。
本当に生きることは七十にしてわかったというわけです。人間が人生を生きることについて、アメリカの臨床医キュープラ・ロスは患者から次のように訴えられたのです。
「先生、私はいい生活はしてきたけれど、本当に生きたことがありません。」この患者さんの訴えには「先生、本当に生きるとはどういうことか教えて欲しい」という問いが含まれているのでしょう。
私どもはこの隠された問いを誰もが内深くに持ちながら、古今東西、表現は違えども、生きる上での質といったものを問いとしてきたのです。
釈尊も「最上の真理を見ないで百年生きるよりも、最上の真理を見て一日生きることのほうがすぐれている」(『ダンマパダ』115句)という言葉を残されています。
これは、生きる上で日常感じる悩み・不安・むなしさ・空虚といった感情として、誰しも経験している事柄だと思います。
冒頭に「天上天下唯我独尊」という釈尊の言葉を紹介したのは、現代の豊かな時代に忘れられている「自由」という言葉の持つ深い意味合いを、もう一度吟味しなければならないことを、私どもに提起していると思われるからです。
今までも、そしてこれからも、人間は、生きる上で私を束縛するあらゆる「拘束からの自由」を求めて生きてきたと言えるのですが、そこで求められてきた「~からの自由」という動機が、それだけ満たされたら満足できるのかといえば、(臨床医キューブラ・ロスさんの患者が提起している問いが)実は解かれないままになっているのではないかということが、はっきりしてきたのが現代ではないのかと思われます。
仏教の教えには、自由とよく似ている言葉で「自在」という言葉があります。
仏教が「自在」という言葉で表現してきた内容こそが「唯我独尊」という「我ひとりであって尊い」という宣言の中に込められてきたメッセージであると言えるのでしょう。(続く)


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Posted by 守綱寺 at 20:00│Comments(0)清風
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