2019年01月04日

本堂に座って 2018年11月

本堂に座って 2018年11月

今月は、先月に引き続き中川先生の本からお話を紹介します。
「苦」の原因、「苦」と「私」の関わりについて、「一(いち)」をキーワードに教えてくださっています。

仏教の「慈悲」を説明する言葉に「抜苦与楽」、苦を抜きて楽を与えるというものがあります。
私たちが自らの苦から解放されたいと思うとき、その苦の原因を正しく見ることが、本当に大切なのです。
普通、私たちはお金がないことが、苦の原因であると考えます。つまり、お金のあるなしが、自分の生きることの苦楽を決定すると思っています。
それは、能力についてもそうですし、環境についてもそうですけれども、結局いつでも自分の外にある何かが、自分を苦しめるものだと考えているのです。
そして、その苦の因を逆転させることによって、自分の生きることを楽なものにしたいと思っているのです。
貪欲の心をわが心として生きるかぎりは、どれだけ恵まれた結構な状態にあっても、これでよしとすることができないのです。
その意味するものは、私たちには、この世の何ものによっても満たされることのない欲求があるということです。
では、生きていることを貫いてある私たちの欲求は何か、ということですが、それは「一(いち)」を獲得したいということです。
自分と自分との間に、そして自分と他人との間に「一」を獲得したいということです。自分と自分が一つにならない、自分と他人が一つにならないことが苦なのです。
自分が自分と一つにならないことで言えば、自分が自分自身を受け取ることができない、自分の中に隠さなければならない自分を持っているのです。これが自分だと知っているけれども、その自分を公開できない、つまり、見られないのです。
実は、私たち人間の問題は、コンプレックスなのだと教えられます。劣等感からどう解放されるかという問題です。
どのようなすがたで苦があっても、苦と感じるところには、必ず、二つにものが分かれています。
劣等感は自分と自分とが、孤独は自分と他人とが二つに分かれて、切れたままになっているのです。
そのことを我々がいちばん感じるのは、自分の思いと現実とのギャップです。自分はああしたい、こうしたいと思うのだけれども、思ったとおりにならないというかたちで、私たちは苦を感じるのです。
自分の思いと、思いどおりにならない現実というかたちで二つに分かれるのです。
つまり、「二」に分かれていることが苦の構造なのです。
なぜ「二」に分かれるのか、なぜ一つになれないのかというと、普通は、あいつが俺の言うことを聞かないからだとか、性格が違うからだとか、自分に能力がないからだとか、生活環境が悪いからだとか、いろいろありますが、私たちは自分の外に一つになれない原因を見て、それを変えることによって、一つになろうとするわけです。
よく、自分の時間がないと言う人がいます。二十四時間という時間があるけれども、それが、プツ、プツと切れている、と。
働いておられる人は特にそう感じておられるようです。
プツ、プツと切れて、自分の時間がない、と。
ところが、そう我々が言うとき、そのように言う自分というものが全然問われていない、そういう自分を前提にして、その自分の思いにかなった、自由に使える時間がないと、こう言っているわけです。
実は、この前提にしている自分こそが、あらゆる時間を、プツ、プツと切っているのです。
本当は、自分の時間といえば、全部自分の時間なのです。それを自分の思いの中に取り込んで、いろいろと言っているのです。
普通、我々が「私」と言うとき、その私は、私以外の他の人と離れて別にあると考えているわけです。ところがそんな私は幻想だと、そんな私はもともと存在しないのです。
そういう私に立って、自分の思いどおりに使える時間がないと言って、悩んでいるのです。それがもともと幻想なのだということがわからないのです。
私たちが、真に苦から解放されるためには、私たちが、何ら疑うことなく前提にして生きている、この「私」を立場としない新しい「私」が生まれなければならないと思うのです。
(『ただ念仏せよ 絶望を超える道』 中川皓三郎 著 東本願寺出版発行より引用しました。)

自分と自分、自分と他人を「二」に分けてしまう、「一」になれないのは、相手でなく「私」に原因がある…その「私」を知るために、仏さまの教えがあるのです。


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Posted by 守綱寺 at 15:59│Comments(0)本堂に座って
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