本堂に座って 2023年9月

守綱寺

2023年09月13日 11:51


今月も先月に引き続き、くればやしひろあきさんの著書『自走する組織の作り方』から文章を紹介します。
同じことについて話しているはずなのに話がかみ合わない…原因は案外こんなところにあるのかもしれません。

中学生になったばかりの妹に、中3になった兄が尋ねました。
「今度、はじめてのテストだろ? 学年順位は何番が目標?」 
「そんなの1番に決まってるじゃん?」
「あのなぁ……、1番を取ろうと思ったら、そんな勉強時間じゃダメなんだぞ」 
「はあ? お兄ちゃん、なんかウザいし」
このやりとりがなんだかおかしくて印象に残っています。
目標という言葉の意味は、実は人それぞれ違います。
まだ彼が中学校2年生だったころ、「学年順位30位」という成績表を持ってきました。
妻がそれを見て、次の目標を尋ねると、「次は35番くらいかな」と言うのです。
妻はガッカリしながら
「何を弱気なこと言ってるの。せっかくだから、25位とか20位とか、上を目指しなさいよ」
それを聞いて、長男は
「なんで?」という表情を浮かべています。
それで僕は彼に「35番」を目標にした理由を尋ねました。
「だってさ、父ちゃん。テストが終わったらすぐに部活の大会だからさ、テスト週間中も練習があるんだ。いつもみたいにテスト勉強できないし。それに、今やってる化学の分野があんまり得意じゃないんだよね。だから、順位は下がると思うけど、でも下がっても5番くらいかな、って思ったからさ」と教えてくれました。
彼は僕と同じように「できないこと」は言わないタイプの人間です。
達成する見込みがあるから「目標」なのです。
「できない自分」は好きではありませんから、目標は「できる範囲」を示します。
他の人には「目標設定が低い」と感じられますが、彼にとってそれは「ノルマ」のようなものです。
一方、妹は違います。「目標」はあくまで「目標」。
できるかどうかはどうでもいい。「こうなったらいいな」が「目標」なのです。
「夢」と呼んでもいいかもしれません。
壮大ですから、達成されないことが多い。
ですから、妹は「1位」を目標にし、兄はそれを聞いて「そんなの無理」と言う。
「取れたらいいな」ぐらいの妹にとって、「目標に掲げたなら努力しろよ」と言う兄は、やっぱりウザかったわけです。
言葉の解釈が異なりますから、会話がまったく噛み合わないのは仕方がありません。
職場でアンケートがありました。提出期限は3日後。もちろん期限を守って提出しました。
ところが、です。
4日目の朝を迎えてもアンケートの回収袋がそのまま残っているのです。
僕は尋ねました。
「アンケートって昨日までじゃないの?」すると、アンケートの担当者がこんなことを言い出します。
「提出期限を言っても出さない人がいるんですよね。だから、期限を前倒ししていて。一応、明後日までに出してくれれば大丈夫です」 
「期限」を守った僕からすると、(守らなくてもよかったのか…)という気持ちになります。
次回からはきっと(まあ、遅れてもいいか…)になるでしょう。
それから2日が過ぎましたが、案の定提出しない人がいて、一人ひとりに督促の声かけをしていました。
期限は守るためにあります。
提出の目安なのか、それとも期限なのか。こういうことを共通理解しておかないと、組織の中に期限を守らない文化ができあがります。
このような文化が、成果を出さない緩い組織づくりにつながります。
「目標」や「期限」などに対して、リーダーがいいかげんでいると、組織は弱体化していきます。
それはなぜでしょうか。組織の活動の推進力となるのは、「目標」を掲げたらそれを達成しようとするタイプの人間であり、「期限」を掲げたらそれを守ろうとするタイプの人間です。
大きな成果をあげるわけではありませんが、コツコツとコンスタントに成果を出し続け、それが組織の成果の底上げをしてくれます。
そのようなタイプの人間に「ちゃんとやって損した」と思わせてはいけないのです。
彼らは損得に敏感です。
「計画」や「スケジュール」も同様です。
コロコロ変える人と、変えてはいけない人がいます。
基本的に成果を出すタイプの人は、コロコロ変えられると、「あれはなんだったのか?」という気持ちになります。
変えるなら、「変える理由」を明確に伝えて納得させることです。
こういった言葉は、普段何気なく使っていますが、実は人によって受け止め方や解釈が違うことがあります。
言葉の理解について、きちんと共通理解をしておきたいものです。
(『自走する組織の作り方』くればやしひろあき著 青山ライフ出版発行 より引用しました)


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