本堂に座って 2023年10月

守綱寺

2023年12月26日 09:57


今月も先月に引き続き、くればやしひろあきさんの著書『自走する組織の作り方』から文章を紹介します。
質問を受けたときに、何と言ってあげられるか…。本当に相手のためになる言葉とは何かを考えるきっかけをいただけるお話です。

廊下のベンチに腰を下ろして、一人の男子生徒が落ち込んだ表情をしていました。
その表情が気になって隣にそっと腰掛けました。
「元気ないな、どうしたよ?」彼は担任の先生とのやりとりを話してくれました。
「受験する高校の行き方とか、お金がどのくらいかかるかとか知りたくて先生に聞いたら、叱られたんだ」「へえ、なんて?」「そんなの自分で考えろって」ここだけを聞くと、なんて冷たい先生だろう?と思うかもしれません。でも僕らは案外実生活の中でも「自分で考えろ」という言葉を使いがちです。それはなぜでしょうか?調べればわかることをよく調べもせず尋ねてくる人がいます。リーダーは他者より多くの案件を抱えている人が多いですから、忙しいときに尋ねられれば「そんなの自分で考えなさい」と言いたくなる気持ちもよくわかります。ただ「自分で考えなさい」と言われた人だって考えています。でも、その人の能力では答えに辿り着けなかった。だから相談してきたのです。
以前、地方に講演で呼ばれたときのことです。参加される女性から、問い合わせのメールが届きました。「講演会の会場の近くに美味しい食事場所はありますか?教えてほしいのですが」それこそ「自分で考えなさい」という内容です。もちろん無視したっていいのですが、きっと考えてもわからなかったのだろうなと思いました。ここで大切なことは「美味しい食事場所を調べて情報を送ってはいけない」ということです。それをしてしまうと「困ったらメールを送ればいい」と学習してしまいます。次はきっと「どうやって行けばいいですか?」「どのくらいかかりますか?」「コンビニはありますか?」と全部聞いてくるでしょう。ですから「答え」を教えるのではなく「答え」に辿り着く方法を教えるようにします。僕は某有名グルメランキングサイトのURLを貼り付けて「こちらで調べるといいですよ」と返信しました。彼女からは「親切に対応していただき、ありがとうございます。調べてみます」と返事がありました。彼女が知りたかったのは「美味しいレストラン」ではありません。「美味しいレストランの調べ方」だったのです。
前述の生徒も同じです。「自分で考えなさい」ではなく「こうすれば答えに辿り着けるよ」という情報を与えてあげれば解決できた話なのです。「教室に一冊ずつ受験ガイドって本があるの、知ってる?」と伝えると、彼は首を縦に振りました。「あそこに知りたい情報が載ってるから、一度見てごらん」と伝えました。彼の表情はパッと明るくなって、教室に戻っていきました。ほんの3分間の出来事です。
リーダーは「答え」を与えてはいけません。「答え」を与えると「困ったら聞けばいい」となり、考えない人を育てます。だから「答え」に辿り着くための「方法」を教えます。ではなぜ「自分で考えなさい」という言葉もまた、考えない人を育てるのでしょうか。実は彼らだって自分なりに考えたのです。でも自分では「答え」に辿り着けなかったからリーダーに相談をしました。そこで「自分で考えなさい」と突っぱねられたら、彼らは当然「相談しなきゃよかったな」と思います。「相談しても無駄だった」という経験だけが残ります。受験校の情報が知りたいと思い、調べてみようと行動した彼にとって、自分で考え自分で行動することが苦い経験として残ってしまいます。その経験が、自分で考えて自分で行動しようとするエネルギーを枯渇させてしまうのです。次にわからないことができたとき、(まあいいか。叱られたくないし…)となってしまうわけです。相談されたら「このサイトで調べるといいよ」「この人に聞くといいよ」「この本を読むといいよ」と教えてあげます。Googleで調べたらすぐにわかることを尋ねてくる人もいます。そんなとき「Googleって知ってる?」と嫌味も込めて伝えていたのですが、それでも答えに辿り着けない人がいて驚きました。よくよく観察してみると「検索ワード」がわからないのです。だから「検索ワード」もセットで教えてあげることを心がけました。「答え」ではなく「答えに辿り着く方法」を教えてあげる。これが正解です。「自分だったら、この人の疑問に対してどのように答えに辿り着くだろう?」と問いかけてみると、「自分で考えなさい」とは異なる言葉がけが見つかります。困ったとき寄り添ってくれるだけでなく、成長までさせてくれるリーダーのことを信頼しないはずがありません。
(『自走する組織の作り方』くればやしひろあき著 青山ライフ出版発行 より引用しました)






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