2021年03月01日

清風 2021年3月

清風 2021年3月

私たちはどこから来たのか、
私たちは何者か、
私たちはどこへ行くのか
             
画家 ゴーギャン(1848~1903)

この言葉は、ゴーギャンが南太平洋のタヒチ島にて描いた絵画の上に書かれているもので、それが今では、この絵の画題となっているのだそうです。
ヨーロッパで「神は死んだ」と言われてくるのは、「我思う、故に我あり」というデカルト(1596~1650 フランスの哲学者)の言葉に象徴されているように「我・エゴ」が「自己存在・主体」の地位につき、いわゆる神(自己を超越したもの)を葬り、神に死を宣告し、産業革命を引き起こしてくる事態からであり、つまり近代の幕開けなのです。
近代の幕開けとは、人間の欲望が全面的に肯定されてくる時代と言えるでしょう。
宗教の名においても同様に、エゴの満足が達成されていくことが無疑問的(当たり前)に認められることになった時代です。
冒頭に掲げたような言葉を画家が画題として使用し、問いを投げかけた時代、それが近・現代に生きる我々の問いでもあると言えるのでしょう。
進化論に象徴されるように、生きものの最高の存在「万物の霊長」と自称したちょうどその時、私は「どこから来て、どこへ行くのか」、ぼやけて決められなくなってしまったのです。
我が人生の入口も出口も分からなくなったのです。
1970年頃には「人間死ねばゴミに成る」という遺言を残して亡くなった人も出て来ました。
そして、コロナ禍です。我が国では1月下旬にコロナ患者が5千名を超え、パンデミックの第3波と言われています。
コロナとは、どういう質の問題を我々に投げかけているのでしょうか。
「私たちはどこへ行くのか」、行く先が分からなくなったのにスピードまかせの「はやく、はやく」一点張りの旅行が苦しくなったということではないでしょうか。
そこで、昨年の「清風」(6月号2面)で少し触れた英語「END」の意味を巡ってのことを、もう少し話題にしていきたいと思います。
辞書を見ますと「END」には2つの意味があります。
第1の意味は「終わり」、2番目は「目的」です。
この2つの意味を重ねて考えるとすれば、「終わりが目的である」と言える人生が開かれてくるのだ、という根拠はどこにあるのかという問いになるのではないでしょうか。
コロナ禍と言われるのも、ここに大きな超えられない現代人の矛盾があるからだと言えるからでしょう。
「出口なし」とは、死ねなくなった ― 結局、殺されていくか、壊れていくか、そのどちらかでしかなくなったということですから。
「私たちはどこへ行くのか」、それが明らかでないのが、進歩・進化したはずだった現代人の生きる行方に立ちはだかる大きな鉄壁としての問いとなった、その草分け的な問いかけが「人間死ねばゴミになる」という呻きだったのでしょう。
その叫びが、今では尊厳死・安楽死という表現に変わっただけで、依然として状況は変わっていないようです。
「尊厳なる生・安楽な生とは」と、いっぺんも問いかけられてはいません。
この問いかけから、釈尊がお覚りを開かれた時の第一声に注目させられます。
その第一声とは「我は不死(無死ではない)を得たり(私は死によって失うものは何もない)」。
この「失うものは何もない」という宣言こそ、仏弟子への釈尊における人生の受け止めの表明であったのです。
その生涯の全てが、実は涅槃であったのです。
涅槃とは「完全燃焼の生涯」と訳されています。
その人生の終わりが目的として完結した、との表明なのです。
漫画家・水木しげるさんが「あなたにとって幸せとは何ですか?」と聞かれて「呼吸のできることです」と答えられたように、この人生、全ては与えられたもので、「お陰さまでした」ということでしょう。
「陰」とは自分には見えないこと、つまり、私の生涯はたくさんの人の配慮とたくさんのいのちをいただくというご懇情を受けて成就することができたのでありました、「お陰さまでした」、ありがとうございました、ということです。
こうした人生が開かれることこそ、三帰依文の冒頭に「人身受け難し、今すでに受く」という文言が置かれている意味であり、仏教からのプレゼントそのものなのですから。
(住職継承式を終えて。「清風」の発行と儀式執行の意味を、原点に帰って考えるために。(前住職)南無阿弥陀仏)

<お詫び>
「清風」2021年2月号1面「巻頭の言葉」の一部に誤記がありました。
「人間とは その知恵ゆえに まことに深い闇を持っている」の文末は、
                          ↓
「人間とは その知恵ゆえに まことに深い闇を生きている」でした。
訂正しお詫びいたします。


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Posted by 守綱寺 at 14:55│Comments(0)清風
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