2019年01月04日

本堂に座って 2018年9月

本堂に座って 2018年9月

毎年8月下旬に豊田市の街なかで「夏季講習会」開催されます。
今年は本多雅人先生を講師にお迎えし、お話を聞かせていただきました。
本多先生のお話は、穏やかな語り口のなかにスパッと切れ込む鋭さ(!?)があって、楽しくわかりやすく聞くことができて、でもしっかり自分が問われていく…という、とても聞きごたえのあるものです。
そんな本多先生が京都・東本願寺で話された講演録から、葬儀についてのお話を紹介します。

それまでの私は、努力すれば自分の力で何でも解決できると思いこんでいました。
縁を無視して、何でもできるということが、自力ということなのです。
それに対して、他力というのは、そういう私が如来に照らされて、傲慢な自分のあり方に気づいていくということでしょう。
私は、そういう人間のあり様をひっくり返していく一番大切な御縁が真宗の葬儀だと思うのです。
「これぞ人間が明らかになっていく真宗の葬儀だ」という例を、一つお話したいと思います。
お盆に、いつもお参りに行くご門徒宅がありました。
その家の奥さんは、結婚するまで、九州のお寺の日曜学校にも行って真宗の教えを聞いてきた人で、結婚後も連光寺でよく聞法をされていました。
その奥さんが乳癌になられたのです。
お盆でお邪魔した時は、癌と共に生きていける道があるのかということを尋ねるかのように、私と一緒に同朋唱和をされておりました。
乳癌が完治した8年後のことです。
ある日、奥さんが「体中に癌が転移して、年内はもたないかもしれません。
自分が亡くなったら、ぜひ蓮光寺さんでお葬式をしたい」と電話がありました。
奥さんは、自分の人生全体を南無阿弥陀仏に受け止められて一生を終えたいというお気持ちがあったようです。
家族は病院ではなく、奥さんが自宅で過ごしてもらいたいと自宅医療を決め、奥さんは日々弱りながらも明るく過ごし、それから半年ほど経て浄土に還っていかれました。
65年の尊い人生でした。
私は枕勤めのためご自宅に行き、奥さんと対面しました。
奥さんのお顔には布が被せてありました。
私は「自然のままがいいから取りますよ」と旦那さんに言いました。
旦那さんは「いや、うちの女房は痩せこけた顔を見られたくないってよく泣いていたから、被せておいてほしい」と言われました。
私は「奥さんは教えを聞いてきた人ですから、愚痴を言うのも南無阿弥陀仏の世界のなかにおられますから大丈夫です」と言って布を取りました。
生前の面影はなく骨と皮だけになっていました。
奥さまの願い通り、お寺で通夜、葬儀、還骨が勤まりました。
葬儀後の出棺前のご主人の挨拶が忘れられません。
「私たちは長らく夫婦生活を送ることができましたが、妻が亡くなるまでの半年間が一番深い夫婦生活を送ることができました。本当の夫婦になりました」と。
この言葉は私の胸に深く突き刺さりました。
骨と皮だけになっていく奥さまとの夫婦生活が、今までで一番深い夫婦生活であったということはどういうことでしょうか。
「日常では、条件に振りまわされながら、自分の思いを見たそうと生きています。ところが、妻の姿は無条件に尊かったのです」と旦那さんが言われました。
生きてあることの存在の重みを感じたのです。どうにもならない状況のなかで、日常見失っていた、存在の尊さを奥さんが病気の身のままにお伝えしてくださったのではないでしょうか。
それは「どうか念仏申す生活をしてください」という奥さんの願いの姿だったのでしょう。
人間は死を受け止めることで、本当に今を生きられるようになるのです。
(『ともしび』2018年6月号 真宗大谷派教学研究所 編集
本多雅人先生の講演抄録「縁を生きぬく意欲」より引用しました。)

近頃、葬儀の形や葬儀に対する考え方も様々になっていますが、亡き人と出会い直し、また自分自身と向き合い、自分について学び知らされていく…という、葬儀の意義についてあらためて受け止め直すきっかけをいただけるお話


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Posted by 守綱寺 at 15:31│Comments(0)本堂に座って
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