2022年10月11日

清風 2022年10月

清風 2022年10月

宗教を救済としてのみ見るのは、
            人間の自己肯定である。
根源的意味でのエゴイズムである。
それを破って、
人間としての深い根元に呼びさます自覚こそが、
宗教の本質といわれるものである。

『安田理深選集』(全22巻)安田理深(1900~1982)
私塾・相応学舎を主宰


現在の我が国では安倍前首相の死後、二つのことが問題となっています。
一つは安倍前首相の葬儀を巡っての、国葬と決めた岸田首相の決め方。
もう一つは死後鮮明となった「統一教会」と安倍首相さらに安倍派議員を中心としての関係、そして自民党と他党との関係です。
さらに政局としては、憲法改正と軍事費増強が中心となるとされています。

私も僧侶の一人として、統一教会が宗教法人として日本で教化活動をしているという、その布教の具体的な実態を知ったのは、新聞報道によってなのですが、その布教内容が「先祖の供養が足りないから、あなたの今のその苦しみは解けない」という内容で始まり、手口にはまっていくということのようでした。
この件については、本紙「清風」2017年11月号・2018年11月号で触れているのですが、我々は生きている限り、いろいろなことに出会っていかねばならないのですね。
そのいろいろなこととは、簡単に整理すれば、自分にとって「都合のいいこと」か「都合の悪いこと」なのか「関係のないこと」なのかに分けられます。
それが都合の悪いことならば再びそういうことが起こらないようにしたい、と思うでしょう。
そうした場合には、それをどう受け止めてゆけばよいでしょうか。 
一言で言ってしまえば、宗教は「救い」を扱うものと言われますが、その「救い」について私どもはどのように理解しているか…ということに尽きます。
これが「仏教の教え」と言えます。
「先祖がたたっているから、先祖の供養をしなさい。そうすれば、もうあなたは苦しまなくてもよくなります。」
これを前提として、統一教会なりに技法が考えてあるようです。仏教ならば、「あなたは生まれてくるときに、条件を出して生まれてきましたか?」とまず確認が入るでしょう。
私たちは無条件でこの世に生を受けてきたのですね。
人間は生まれてから、人生とは自分の思い通りになるのが幸せなことだと、誰から教えられたのでもなくそのように受け止め、それが全く自我のなせる技なのです。
仏の教えとは「そうではないよ」「先祖が迷っているのではない、迷っているのはあなたですよ。」と呼びかけてくださるものです。
あなたへの「目覚めの契機」として、今回の御縁を(たとえ都合の悪いことであっても)あなたに受け止めて欲しいと、先祖が願っておられるのです。
「迷っているのは私だった」と気づかせていただく御縁にしなさいというのが、ご先祖の願いだったと気づかされていく、それが仏事(年回法要)を勤める意味なのです。
「思い通りになることが幸せになること」という了解は、思い通りになったことを次からは「当たり前」としてしまって、「生きていく上で起こってくる出来事を受け止めていくのが私の人生」なのだということを、わからなくしてしまうのです。

その一つの例を挙げてみましょう。

2016年の「春の選抜高校野球大会」の開会式の選手宣誓は、「当たり前にある日常の有り難さを胸に、僕たちはグラウンドに立ちます。」というものでした。
私にはとても印象深いものでした。
2011年の東日本大震災における高校生球児たちの経験が、このような宣誓をさせたのでしょう。
この宣誓は、小豆島の高校球児が考えたものでした。
東北(特に福島県)の球児たちは放射能の影響があり、運動場での練習は一日一時間しかできない、後の練習は体育館でのバットの素振りか、投手はバッターを立たせての投球練習しかできない、そういうことを聞かされていた小豆島の球児たちは、福島のそうした状況を知って「当たり前にある日常の有り難さを胸に」という言葉を用いて宣誓文を作ったのでした。

苦しいことがある、悩まされることが起こってくる、その前提には「いのちが与えられている」という紛れもない前提があるにもかかわらず、特に現代人は、その前提に気づくことができなくなっているのです。
この「有り難い」ことを「当たり前」のこととして見過ごしてしまうこと、これを仏教では「無明(知らない・「気づけない」ことに気づけない)」と教えられてきました。
(この項続く)

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Posted by 守綱寺 at 14:41│Comments(0)清風
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