2018年04月29日

清風 2018年4月


清風 2018年4月
天上天下唯我独尊

釈尊
(仏教を開いた祖、現在のネパールに生まれる。紀元前6世紀~5世紀の人)

お釈迦さまはこの宇宙のただ中にあって、「人はそのままで尊いのである」と語られた。
「いのちが尊い」と言える根拠を示す。
明治の清沢満之は、この釈尊の「天上天下唯我独尊」について、次のように述べている。
「自己に充足して、求めず、争わず、天下、何れの処にか之より強勝なるものあらんや、何れの処にか之より広大なるものあらんや。
かくして始めて人界にありて、独立自由の大義を発揚し得べきなり。」(「絶対他力の大道」)


近代の人間が求めた自由への希求は、フランス革命によって掲げられた「自由・平等・博愛」というスローガンによってよく知られています。
人間のその歩みは、この「自由・平等」を求めてのものでした。
そしてまた、この「自由・平等」の内容は、「スタートの平等、競争の自由」と語られてきました。

「スタートの平等」について言えば、日本の近代化は明治維新にスタートしたのですが、制度の上でスタートの平等を実現しようとしたのは、教育制度にその形を見ることができます。
それまでは身分制度(士農工商)によって、教育が平等に保障されることはありませんでした。
農工商階級に生まれたものは、他の階級・侍(士)階級のものとは対等ではなく、農工商の身分のものは同席することも許されませんでした。
ですから、教育も全く独自の形で行われ、農工商階級の身分のものは、読み・書き・ソロバンとも言われる基本的な素養を身につける程度でした。
それが明治維新によって、四民は平等であるということで、不十分ではあったでしょうが小学校が設立され、かつての士農工商どの身分のものも、小学校では誰でも7歳になる年の4月に入学し(スタートの平等)、その教育の場では結果は試験によって成績がつけられて、その結果に差がつくことも(競争の自由として)認められることとなりました。
そしてこの自由と平等の下では必ず差がつきまとい、その差を補っていくために、自由と平等に加え、博愛の名において、援助というか制度的保障が加えられることとなりました。
フランス革命で提唱された「自由・平等」という目標は、「博愛」という語が付け加えられているように、実は大きな課題を内包していると言えるのです。
例えば、先月号で紹介したターミナル・ケアの医師、キュープラ・ロスさんが患者から受けた、「先生、私は良い生活はしてきたけれど、本当に生きたことがありません」という問いに込められている、「本当に生きるとは、ということが問われることなく」教育によって「人材」として評価されていく点です。
現代においては、便利で快適な生活をすることが人生全体を貫く目的となってきました。
もう少し生活に即した言い方をするなら、私の思い通りになっていく人生ということでしょう。
苦しいこと、悩むこと、空しさを感ずる感性の存在する意味が分からなくなった … 誰もそういったことについて、「生きていてこそ、命あってこその内容」だという事実について、思いを巡らす余裕がなくなったということでしょうか。

『自由からの逃走』(エーリッヒ・フロム著 創元社刊)には、「中世末期以来のヨーロッパおよびアメリカの歴史は、個人の完全な解放史である。
(略)しかし、他面「…からの自由」と「…への自由」とのズレもまた拡大した。」(同書P46)とあります。
先に挙げた患者さんの訴えは、まさにこのズレの告白と言えるでしょう。このズレが深刻な事態をもたらしつつあることがことが、オウム事件(1995年)、障がい者施設・津久井やまゆり園事件(2017年)から見えてきます。

こうした状況から、自由を求める我々の目的は「欲望の充足」であって、「存在の満足」にはならないということが、あらためて問われねばならない時代になっていると思われます。


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Posted by 守綱寺 at 20:00│Comments(0)清風
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