2022年06月27日

清風 2022年6月

清風 2022年6月

人間は生きものであり
自然の中にある
『科学者が人間であること』岩波新書 2013年刊
2018年3月第6刷 「はじめに」より
中村桂子 著(1936年生まれ。前JT生命誌研究館館)

私たち現代人は、そもそも人間は生きもので在り、自然の中にあることを忘れがちです。
(略)自然は人間が制御できるものではなく、もっともっと大きなものであり、私たちはその中にいるのだということを痛感したのです。
科学技術が自然と向き合っていない。これが東日本大震災(3・11)で明らかになった問題点です。
震災直後に多くの人の怒りを買ったのは、科学技術者の思わずもらした「想定外」という言葉でした。ここには、「人間がすべてを制御する」という科学技術、工学の発想があります。
自然がすべて解明されているわけではないことはよく分かっているのに、特定の数字を決めて計算しているうちに、人間がすべてを設定できるという気分になり、その数字の中で考えるようになってしまうのです。
(『科学者が人間であること』中村桂子 著「はじめに」より冒頭の言葉からの続き)

精神のない専門人、心情のない享楽人。この「無の者(ニヒッ)」は、人間性のかつて達したことのない段階にまですでに登りつめた、と自惚れるだろう。
(『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』M・ウェーバー 1920年刊)
このM・ウェーバーの文は、先月号の2面、最後から5行目に「経済成長のためにはなりふり構わぬ、無の者」と書いた元となる文献です。
【お詫び】先月号に掲載する予定だったのですが、不掲載のまま印刷してしまいましたので、今月号に掲載する次第です。

今、政府は「新しい資本主義」と称して、今後「情報化社会・半導体社会」と言われるAI(人工知能)技術が担う社会が当来することが予想・予期されることを目指して、これらの分野に資本を一点集中的に投資していくことを考えています。
アメリカの情報産業の中心となる三社が巨万の富を稼ぐ状況が、我が国でも報道されている中で、その富を稼ぐ施設として、例えばIR(統合型リゾートとも言う、カジノ(賭博場)・劇場・ホテル・大規模商業施設・国際会議場が集まった観光集客施設)の建設計画が打ち出されて、4県がその建設に名乗りを上げ、県議会・市議会で上程されたのですが、2県はその提案が議会の反対多数で否決されました。
賭博依存症の家族等からの設置反対の声も相次ぎ、専門医からも心配する意見が出されていたのです。
そうした中でも、議会で設置を否決された県知事は記者会見で「痛恨の極みだ。県経済を良くする最大の起爆剤が失われた」と語っているのです。
人も、経済成長のための“素材”なのであり、IRによって人間の崩壊である「依存症患者」を生み出すことも、それは経済成長のためのリスクであって、その対応として「依存症外来」を設置して治療に万全を期す、とも言われていました。
ダーウィンの『進化論』に依るところなのでしょう。
人間は「万物の霊長」であると自称するようになりました。

ここで先月号の冒頭の言葉を、あらためて紹介します。
万有の進化は人間に至りて一段の極を結び形態的進化は此より転じて精神的の進化に入らんとするか。(略)吾人は絶対無限を追求せずして満足し得るものなりや。
(『臘扇記』清沢満之全集 第8巻P358~359)

近代においては、人間などの生きものを生み出した母胎である自然ですら、人間の欲望を満たすための(経済成長のための)資源として…という視点で、“利用価値のあるもの”として対象的に見られてきています。
親ガチャ・子ガチャという言葉があるそうです。
これはまさに、この近・現代における我々人間の自然観から生み出されてきたと言えます。
「親は子を選べない」「子は親を選べない」という意味だそうですが、親は子にとって、子は親にとって、利用価値からの評価の対象としてのみ存在できる・存在が許されるということになっているということなのでしょう。
こうした事態もあって「今後、時代はもっと厳しい混沌とした状態に陥っていくのではないかと。
しかし、その混沌はある意味むだではないかとも思う。
それを潜って、そこから何かを見つけ出すのではないのか」(『3・11と私』藤原書店刊 共著)と、『苦海浄土』の著者、石牟礼道子さんは書いておられます。
上記で紹介した清沢満之先生の「形態的進化は此より転じて精神的の進化に入らんとするか。
吾人は絶対無限を追求せずして満足し得るものなりや」という指摘こそは、石牟礼道子さんの言われている「そこから何かを見つけ出すのではないのか」という、その「満足」を考えるヒントが示されていると思うのですが、さてさて。(この項続く)


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Posted by 守綱寺 at 11:24│Comments(0)清風
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